宇陀の桜木

 奈良盆地の東南部に宇陀(うだ)と呼ばれる地域がある。
 山と山の合間を縫うように集落が点在するところで、曽爾(そに)村の大きな岩壁(屏風岩、小太郎岩)や広大なススキの野原、日本最古の薬草園といわれる森野旧薬園が含まれる。県内の他の地域とは異なり、歴史よりも自然が観光資源の主軸だ。
 わたしにとって宇陀は未踏の地であり、いつかは訪ねてみたいなとかねてより考えている。
 できれば季節は春がいい。又兵衛桜、千年桜、諸木野の桜など、名にし負う桜の木々があるからだ。
 さらに、室生寺と組み合わせるのが理想的。室生寺へ行くには近鉄室生口大野駅からバスで南下するのが最も手近だが、西側のひと駅手前・榛原駅で下車をし、北東へ迂回しながら、かつての室生寺参詣道と同じルートを徒歩で目指すのも悪くない。
 道すがらには室生寺の南を守った佛隆寺の跡がある。その伽藍跡の石垣に根を張るのが千年桜。最終目的地の室生寺には昨年、新しい宝物館もできたから、期が熟した感がことさらに強い。


 毎年、又兵衛桜の開花を知らされるたびにこのプランをはっと思い出す。そうして気づいた頃には時すでに遅しで、桜はもう散りはじめている。
 本日、満開とのこと。また今年も、宇陀行きのチャンスを逃してしまった。